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脊髄外科、脊髄末梢神経外科

脊髄外科

脊髄外科は、神経外科の一環で、脳神経外科医が脊髄と末梢神経に焦点を当てる診療科です。通常の理解では脳外科に限られると思われがちですが、欧米では神経外科手術の大半を占め、日本でもその重要性が増しています。脊髄腫瘍や椎間板ヘルニアなどの疾患に対する治療が行われ、当院でも脊椎脊髄末梢神経の多くの疾患に取り組んでいます。保存的な治療が難しい場合、低侵襲な手術が選択され、顕微鏡下で安全に実施されます。

脊髄末梢神経治療

脊髄末梢神経治療は、末梢神経の損傷に起因する症状や障害に焦点を当てる医療アプローチです。末梢神経は運動、感覚、自律神経など多岐にわたる機能を担っており、これらの神経のダメージによって引き起こされる障害を治療します。
末梢神経障害には、運動神経、感覚神経、自律神経の機能低下が含まれます。運動神経の障害により筋力低下や筋肉の痩せが生じ、感覚神経の障害ではしびれや痛み、感覚の鈍さが現れます。自律神経の障害では発汗障害や異常な知覚が見られます。これらの症状は単独で現れることもありますが、通常は複合的に存在します。
末梢神経障害は単発性と多発性に分類されます。単神経障害は一つの神経が圧迫されることにより引き起こされ、末梢神経外科の領域で院長の専門です。多発神経障害は全身の末梢神経に影響を与え、アルコール、中毒性疾患、感染症、遺伝性などが原因となります。また、単神経障害が複数起こる、多発単神経障害は糖尿病などによって起こります。治療は主に内科で行われます。

脊椎脊髄疾患の主な疾患

腰椎・腰(こし)

腰椎椎間板ヘルニア

椎間板ヘルニアは、背骨を構成する椎骨間のクッションである椎間板が圧力や経年劣化により破損し、中の柔らかい組織が突出する状態です。この突出した部分が神経を圧迫し、腰痛や下肢の痛みを引き起こす可能性があります。
椎間板ヘルニアは急性の激しい腰痛や下肢痛から始まり、進行すると下肢の力が低下し、運動障害が現れます。まれには、神経圧迫により排尿や排便の問題が生じることもあります。
診断にはMRIが必要で、脊椎脊髄外科専門医(脳神経外科や整形外科)の診察が重要です。通常は保存治療で対処されますが、症状が悪化するような場合には手術が行われます。一部のケースでは、ヘルニアを縮小させるための注射治療も選択肢となります。

腰部脊柱管狭窄症

腰部脊柱管狭窄症は、長い年月の体の負担により背骨が変形し、脊柱管が狭くなる状態を指します。この狭窄が進むと、神経(馬尾や神経根)が圧迫され、坐骨神経痛や下肢の痛み、しびれ感、麻痺が引き起こされます。50歳代以降に増加し、歩行時に症状が悪化する「間欠跛行」が特徴的です。
症状には坐骨神経痛や下肢の異常感覚、排尿・排便の障害などがあり、歩行に制限を生じます。腰部脊柱管狭窄症が疑われる場合は、専門医の診断が重要です。治療法には薬物療法、ブロック療法、手術療法があります。日常生活では、立位作業時の踏み台利用や杖、押し車の利用が役立ちます。

腰椎変性すべり症

腰椎変性すべり症は、中年以降の女性に好発し、第4腰椎に多く見られます。骨の前後ずれが特徴で、腰椎の椎間板や関節が加齢に伴いゆるんで不安定になり、神経の通り道の脊柱管が狭窄すると、神経が圧迫されることで腰痛や下肢の痛み・しびれ感が引き起こされます。
初期は腰痛が主体で、進行すると間欠跛行(歩行時に症状が強まり、しゃがむと軽減する症状)や安静時の下肢の痛み・しびれ感が現れることがあります。保存療法が基本で、腰痛が強い場合はコルセットの装用と腰への負担のかかる動作の回避が重要です。痛みが軽減したら腰部のストレッチや筋力訓練が行われます。
下肢の疼痛やしびれ感が強い場合、保存療法で改善されない場合には手術が必要となることがあります。治療後の経過は通常良好で、早めに専門医の診察を受けることが重要です。

脊椎分離症・分離すべり症

脊椎分離症は、腰椎の4,5番目に好発し、主に学童期のスポーツ活動に伴う外力が原因で腰の骨が連続性を失う疾患です。遺伝要因も一部関与している可能性があります。主な症状は腰痛で、運動時に症状が現れることが多いため、放置されることがあります。早期に適切な保存的治療を行えば、骨折した部分がきれいに治ることが期待できます。診断にはX線、CT、MRIなどが使用され、運動時に腰痛が起きた場合は早めに脊椎脊髄外科専門医に相談しましょう。
脊椎分離症が放置されると、隣り合った脊椎の安定性が損なわれ、脊椎分離すべり症が生じます。すべりが進行すると下肢の痛みやしびれが現れ、時に手術が必要となります。特に骨の成長が未熟な若年者に多く見られます。従って、長引く腰痛や下肢の症状があれば、早めに脊椎脊髄病の専門医の診察が重要です。

腰椎変性側弯症

変性側弯症は加齢に伴い椎体の変性が進み、脊柱が側方に曲がる状態で、初期症状は主に腰痛です。進行すると椎体変形や脊柱のねじれが神経を圧迫し、下肢のしびれや痛み、筋力低下が現れることもあります。腰痛が悪化し、体幹の不安定性も生じる可能性があります。治療は症状の程度により保存的治療や手術が検討されます。手術では変形した骨や軟骨を取り除く除圧術や、脊椎に骨を移植して固定する脊椎固定術があります。手術は高度な技術が必要であり、脊椎脊髄病の専門医の診察が重要です。

腰部椎間板症

椎間板は脊柱の一部であり、髄核と線維輪から構成されています。加齢やストレスにより椎間板の変性が起こり、その結果、腰痛が引き起こされることがあります。これが腰部椎間板症と呼ばれ、急性または慢性の腰痛が特徴です。椎間板の変性により周囲の組織に負担がかかり、腰痛の原因となります。診察だけでは難しく、MRIが必要な場合もあります。治療は鎮痛剤や保存療法が主流で、多くの場合は症状の軽減が期待されます。ただし、激しい腰痛が長期間続く場合や日常生活に支障が生じる場合は手術が検討されることもあります。
正確な診断には経験と専門知識が必要なため、腰痛が続く場合は専門医に相談することが重要です。

頚椎・首(くび)

頚椎椎間板ヘルニア

頚椎は首の部分の背骨で、その間に椎間板があり、可動性とクッションの機能を持っています。椎間板の変性により椎間板ヘルニアが発生し、中央の柔らかい髄核が外側に脱出します。中年以降に多く見られ、突出の方向によって異なる症状が現れます。神経根の圧迫により頚部から腕にかけての痛みやしびれが生じることが一般的で、中央に大きく突出する場合は手指の運動障害や歩行、膀胱直腸の問題も発生する可能性があります。治療は保存的な方法が主流であり、神経障害が進行した場合には手術が検討されます。
早めの診察が重要であり、症状が自覚された場合は脊椎脊髄病の専門医を受診することが勧められます。

頚椎症・頚髄症

頚椎は頚部の背骨で、椎間板の変性により頚椎症が発生します。頚椎症では頚部痛やうなじ・肩甲部の鈍い痛みが現れ、薬物療法や軽い運動で対処可能です。しかし、進行すると骨棘が神経を圧迫し、手の痛みやしびれ、運動麻痺を引き起こす頚椎症性神経根症に進行することがあります。さらに進行すると頚髄症が現れ、手足の使いにくさや感覚障害、尿・便の排泄障害が発生します。
頚の症状だけでなく手足や排泄の問題があれば、脊椎脊髄病の専門医の診察が必要です。診察ではレントゲンやMRIで状態を調査し、薬物療法や手術が検討されます。手術は前方法と後方法に分かれ、いずれも技術的に確立されています。症状が進行している場合は早めの治療が重要で、専門医の診察をお勧めします。

頚椎後縦靱帯骨化症

頚椎に存在する後縦靭帯が骨化して脊髄を圧迫する頚椎後縦靱帯骨化症は、日本人に比較的多く見られ、主に40~50歳の男性に発症します。病因は未解明であり、糖尿病との関連が指摘されています。診断には頚椎の単純レントゲン写真とCTが用いられ、MRIで脊髄の圧迫度を確認します。症状が軽い場合は保存療法が選択されますが、手指の運動障害や歩行障害が進行すると手術が必要となります。手術には前方固定術や椎弓形成術・脊柱管拡大術があり、症状がなくても転倒などで脊髄麻痺を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。専門医の診察を受け、適切な治療法を検討することが重要です。

関節リウマチの脊椎(頚椎)病

関節リウマチ(リウマチ)は手や膝などの関節に痛みを引き起こすが、脊椎にも及ぶことがあります。リウマチ性頚椎病変では、頚椎の靭帯や関節、椎間板が悪化し、不安定な状態になります。主に頚椎に発生し、以下の3つの段階に分かれます。
環軸椎亜脱臼:靱帯や関節が悪化し、頚椎が不安定になることで、特に屈曲時に脊髄神経を圧迫し、手足のしびれや痛み、歩行や排尿排便に支障が生じます。
垂直亜脱臼:第2頚椎が第1頚椎の上に出っ張り、脳を圧迫することで、脳神経症状が加わります。
中下位頚椎亜脱臼:中下位頚椎で生じ、不安定性が強まり、複雑な脊髄神経症状が出現します。
治療にはリウマチの薬物治療に加え、痛みやしびれには鎮痛剤の使用が含まれます。軽度の不安定性では頚椎カラーが有効ですが、神経症状が進行する場合は手術が検討され、除圧や固定術が行われます。神経の損傷が進む前に、適切な治療法を専門医と相談することが重要です。

その他

骨粗鬆症・脊椎圧迫骨折

骨粗鬆症は骨の新陳代謝の不均衡により、骨吸収が骨形成を上回り、骨が脆くなる状態です。女性ホルモンの影響を受け、閉経後に多く見られます。推定患者数は約1300万人で、実際の治療率はその20%ほどです。軽い外傷で脊椎や手関節が折れやすく、脊椎では四角い椎体が潰れる圧迫骨折が起こります。
症状が進行すると、外傷なしで圧迫骨折が生じ、潰れた脊椎は元に戻らず、背中が丸くなり身長が低くなります。初期治療が肝心で、骨量検査が必要です。骨量が減少すると骨を強くする薬物が使用され、圧迫骨折では保存治療が主流です。
一部で骨セメントやカルシウムペーストの注入治療も行われます。神経障害があれば手術が必要です。早めの脊椎脊髄病の専門医の受診が大切で、歯の治療時は薬剤使用に留意が必要です。

脊椎腫瘍(せきついしゅよう)

脊椎腫瘍は脊椎骨に発生する腫瘍で、原発性と転移性に分けられます。原発性はまれで、悪性・良性があり、広い年齢層に発症します。一方、転移性は他の部位からのがん転移が主で、主に中・高齢者に見られます。肺がんや乳がんなどが原因とされます。
症状には骨の壊れによる不安定性に起因する痛みや、神経組織への圧迫によるシビレや痛み、運動麻痺、排尿・排便障害が含まれます。診断は画像検査や生検が行われ、治療は手術、放射線、化学療法が選択されます。転移性脊椎腫瘍では原発がんの治療も検討されます。早期発見が重要で、症状があれば脊椎脊髄病の専門医で診断・治療を受けることが勧められます。

脊髄腫瘍(せきずいしゅよう)

脊髄腫瘍は脊髄やその枝に発生する神経の束の腫瘍で、年間発生頻度は比較的低いです。硬膜外腫瘍と硬膜内髄外腫瘍、髄内腫瘍があり、主に運動麻痺や感覚障害、膀胱直腸障害を引き起こします。腫瘍の種類には良性の神経鞘腫や髄膜腫があり、ゆっくり成長するため症状が現れるのは腫瘍が大きくなってからです。
また、髄内腫瘍には上衣腫、星細胞腫、血管芽細胞腫などがあります。これらの腫瘍は手術治療が主流で、しかし、全摘出が難しい場合もあり、機能的および生命予後は腫瘍の種類によります。手術は顕微鏡下での専門的な技術が必要で、早期発見と治療が重要です。脊椎脊髄病の専門医を受診し、適切な治療を受けましょう。

脊髄損傷

脊髄は背骨の中の脊柱管にあり、脳と末梢神経をつなぐ重要な神経の束です。事故や転倒などにより脊椎が損傷され、脊髄損傷が引き起こされることがあります。これにより四肢や体幹、膀胱直腸に麻痺が生じ、日本では多くの患者が存在しています。脊髄損傷は交通事故、転落事故、転倒、スポーツ事故などが原因で発生し、麻痺の程度は完全麻痺から不全麻痺までさまざまです。
初期における完全麻痺の回復率は低いものの、時間経過とともに回復することもあります。リハビリテーションは急性期から継続的に行われ、患者様の自立した生活をサポートします。医師、看護師、理学療法士、作業療法士などが協力して合併症の予防とリハビリテーションを行います。最新の治療法として、薬剤や細胞移植が研究されており、臨床治験も進行中です。これらの治療法が将来的に脊髄損傷の治療に貢献することが期待されています。

脊髄空洞症

脳や脊髄は脳脊髄液によって保護されていますが、脊髄空洞症はこの液体が脊髄内に異常にたまり、空洞ができる病気です。MRIにより容易に診断でき、厚生労働省の指定難病とされています。主な原因はキアリ奇形や脊髄損傷、脊髄炎などが挙げられ、2500人前後の方が発症していると推定されています。
症状には手足のしびれや運動障害、排尿障害があり、特に腕に感覚障害が見られます。治療には薬物療法と手術治療があり、手術では大後頭孔減圧術やシャント術が行われます。手術を早期に行うことで症状の進行を予防できるため、脳神経外科専門医、脊椎脊髄外科専門医の相談が重要です。

胸髄症(ヘルニア、脊椎症、靱帯骨化)

胸髄症は、背中の脊髄(胸髄)の神経が何らかの原因で圧迫を受け、神経障害が生じる状態を指します。胸椎は頚椎や腰椎に比べて加齢変化が少なく、胸髄症は比較的稀な病態です。原因としては、胸椎椎間板ヘルニア、変形性胸椎症、後縦靭帯骨化症などが挙げられます。
症状は中年以降に現れ、初期には下肢のしびれや脱力が主体で、次第に体幹に広がり、帯状の痛みや歩行障害、膀胱直腸障害が生じることもあります。初期は腰椎疾患と混同されることが多く、診断に時間がかかることがあります。下肢症状が持続する場合は、脊椎脊髄病の専門医を受診することが推奨されます。

化膿性・結核性脊椎炎

化膿性・結核性脊椎炎は脊柱に細菌が付着し、骨の感染(骨髄炎)を引き起こす状態です。細菌感染が原因の化膿性脊椎炎、結核菌感染が原因の結核性脊椎炎があります。主に中・高齢者で見られ、高齢化社会の進展に伴い頻度が増加しています。また、免疫力が低下した方や内科疾患を有する方も発症する傾向があります。
一般的な症状には発熱や病巣部の痛みがあり、膿がたまって神経を圧迫すると手足に進行性の麻痺が生じることがあります。発熱がない場合もあります。診断は血液検査やX線、CT、MRIなどの画像検査を用いて行われますが、他の脊椎腫瘍との鑑別が必要です。
保存的治療(抗生物質の投与と脊椎の安静)が通常のアプローチであり、早期の診断と治療で比較的良好な経過が期待されます。保存的治療が効果的でない場合や麻痺が生じた場合には手術が検討されます。骨の破壊が進んだり特殊な細菌が原因の場合は治療が難しいこともあります。頚部や腰背部の痛みが持続する場合や手足の異常を感じた際は、早めに脊椎脊髄病の専門医を受診して正確な診断と適切な治療を受けることが重要です。

透析脊椎症

透析脊椎症は透析患者にみられる病態で、アミロイド蛋白の蓄積が関節や脊椎に炎症を引き起こし、関節破壊や脊椎変性をもたらします。透析期間や導入時期に影響され、高位で発生しやすい傾向があります。靭帯変性や破壊性脊椎関節症として現れ、保存的治療が効かない場合や神経障害が生じた場合に手術が必要です。透析を受ける方は骨のもろさが考慮され、定期的な専門医の受診が重要です。

脊柱側弯症

脊柱側弯症は脊椎が正常よりも10度以上曲がる状態で、思春期特発性が最も一般的です。女児に多く見られ、学校検診でチェックされます。専門医のもとでレントゲン検査が行われ、治療が必要なら専門病院に紹介されます。成長期に進行し、装具療法が主流で、進行を食い止める唯一の治療法です。角度が大きい場合には手術も考慮されます。治療には専門医の指導が不可欠です。

脊柱後弯症

脊椎後弯症は脊柱が後屈する状態で、原因は様々です。強直性脊椎炎や骨増殖症から椎体骨折、筋肉の萎縮に至るまであります。進行すると股関節や膝関節に負担がかかり、日常生活に支障をきたします。予防や対策としては姿勢の維持や背筋の強化が重要で、症状が進行する場合には手術が検討されます。手術には広範囲な固定が伴い、日常生活への影響も考慮されるべきです。手術を検討する際には主治医から詳細な説明を受けることが重要です。

癒着性クモ膜炎(クモ膜嚢腫)

癒着性クモ膜炎(クモ膜嚢腫)は、脊髄周りの膜であるクモ膜に袋状の病変が生じ、脳脊髄液の流れが妨げられて脊髄に空洞を引き起こす疾患です。主な症状には四肢の麻痺、歩行障害、排尿障害があり、脊髄空洞症と併発することがあります。診断には適切な検査(MRIや脊髄造影)が用いられ、症状の軽い場合は経過観察が選択されます。しかし、症状が進行した場合には手術が必要で、バイパス術やシャント術が行われます。